汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

小説レビュー

あらすじ

人はだれしも選択を間違える。

大切な人を守るため、大切な作品を守るため、ミスを隠すため。

訪問先の家、学校、隣人の家、撮影所、自宅─

それぞれの場所で選択を間違えた人々を描く計5編の短編集。

感想(ネタバレなし)

■うっかりミスからの隠蔽で大惨事

ほとんどの短編において最初は小さなミス(後に起こることに比べたら相対的に小さいというだけでミスとしては大きい)だが、それがばれないように隠蔽することによって悲劇的な結末を迎えることになるのが面白い。

うわー、絶対普通に謝った方がいいよ、って小説に対しては言えてしまうけど、実際に自分がミスした立場だったらって想像してほしい。

もし、上手くいけばごまかせるかも─って思ったときに素直に自分のミスを報告することができるかどうか。

無理かもって思う人(私です)にこそ読んでほしい。そしてちゃんと謝るようにしよ。謝らんとこうなるよ!!

■目の付け所がいい。良すぎて怖い。

ついミスを隠蔽したくなる状況を描いてて怖い。

プールの栓をせずに水を流しちゃった学校の先生、昔の不倫相手に会ってしまった料理研究家など、今謝ったとしたらまだましなのはわかるけど、ばれないのが一番良いと考えてしまう絶妙な状況。

なにか他の理由をでっちあげればなかったことにできないか─その考え、危険です。

■鳥肌の伏線回収

イヤミスの「ミス」の部分をしっかり描いている。

どの短編でも前半で展開された伏線が後半でしっかり回収されるため、ミステリーとしてもかなり楽しめる。

短編によっては倒叙ミステリーになっている話もあり、ミステリー好きにもおすすめ。

感想(ネタバレあり)

■みんなはどれが好き?

個人的には「お蔵入り」。

まず主役が、最後のチャンスにかける映画監督、っていうなにかきっかけがあれば崖を踏み外す可能性のある属性の時点でぞくぞくしてた。

そのあとの主演俳優に薬物疑惑 → 証拠隠滅を提案しに行く → 揉めて殺してしまう っていう流れがあまりにきれいで、コレコレ!ってなった。イヤミスど真ん中。

あとは「埋め合わせ」も好き。

今回の短編の中で特に状況が想像しやすいというか、自分も学校のプールに入ったことがあるから、栓をせずに水を流すというミスの規模感が想像しやすかった。

ただ、ミステリーを読むのが好きやからこう思うのかもしれんけど、学校の見取り図欲しかったな。

そしたら先生の動きがより想像できたかなと思う。なくても全然面白かったけど。

■読んで気に入った箇所

どうして病気になどなってしまったのだろう。一体、私の何が悪かったというのだろう。

(中略)

不治の病を抱えた身体で、彼女は父親が自慢げに口にする「運は自分の行い次第で変わるのだ」という─運不運も自己責任なのだという理屈を、どう聞いたのか。

第一編「ただ、運が悪かっただけ」の一節。

ここは読んでてかなりゾクリとした。

病気になったときって確かに自分を責めるのは過去に自分もそうやったけど、元気な時には神様が見てるから善い行いをすれば報われるという、運不運は自己責任的な考え方をするときもあった。

これまではその2つを結び付けてなかったけど、直接結びつけるとこうも残酷になるのかと思った。

このチャンスをものにしなければ、もう二度と次はない

(中略)

今回の映画が公開できないのは残念だけど、また別のチャンスをつかめるように頑張ろうと─そう考えたりするのだろうか。

第四編、「お蔵入り」の一節。

これが最後のチャンスだと思っていて結果的に殺人まで犯してしまったのに、いざ疑いが別の人に向いていると分かると「次のチャンスで頑張ろうって思うのかな~」って考えに変わってるのが怖かった。

実際これが失敗したらもうおしまいや、って自分で自分を追い詰めちゃうことあるよね。

「まあ、この告白自体は失敗するんですけど」

「この流れで断るとかあるんだ」

これも第四編、「お蔵入り」の一節。

なんか単純にこのやり取りでフフッって笑ってしまった。

イヤミス読んでるぞ!って気張ってたから急にこういうシュールなやり取り来ると笑っちゃう。

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