あらすじ
柏木聖輔は二十歳の秋、独りになった─
父親は十七歳の時に事故死。母親は二十歳の時に突然死。
通っていた大学も辞め、行く当てもなくさまよっていた。
ある日、空腹に負け訪れた砂町銀座商店街で最後のコロッケを見知らぬおばさんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。
感想(ネタバレなし)
■主人公の聖輔を好きになる
道でおばさんに道を譲ったり、総菜屋で最後のコロッケを見知らぬおばさんに譲ったり、自分よりも人のことを優先する。
それを当たり前のようにする。
シンプルに見習いたい。
■周りの登場人物もいい人が多い
聖輔の財布にお金がないと聞くとメンチカツをまけてくれる店主の督次。
優しく見守る妻の詩子。
子供のために働く一美。
適当だが先輩風を吹かせない映樹。
みんな完璧ではないけど、他人への思いやりは欠かさないのがいい。
■いい人を描くのがうまい人は、悪い人を描くのもうまい
数少ないけど、この小説にも悪い人は出てくる。
聖輔から見て(というか聖輔を見守ってる読者から見て)悪い人。
これがちゃんと腹立つ。でもいやな気持ちでは終わらないから安心して。
感想(ネタバレあり)
いい話やったなぁ。シンプルないい話。本屋大賞2位なのも納得。
基本的にはみんな親切なんやけど、それも聖輔が誠実やから相手もそうなってるんかもな。
車道に出てきた猫を避ける父親と、女手一つで息子を私立大学に送る時も笑顔で送れる母親。
この両親のいいところちゃんと受け継いでるって考えると、安直な表現やけども聖輔の中で両親は生き続けるのかも。泣きそう。
あと基志は鳥取に帰ろ?
■気に入った箇所
わき道に入り、ここなら人通りもないからいいだろうとハムカツを食べる。なかのハムが僕好み。ちょうどいい。薄すぎず、厚すぎない。で、熱すぎる。うますぎる。
いいんだよなぁこのシーン。
もちろんハムカツもうまいんだろうけど、東京の人からの初めての親切だからよりおいしく感じるんだろうな。
仕事はキツかったろう。
(中略)
それでも母は笑っていただろう。僕を東京に送り出した時もそうだった。来てくれた鳥取駅でも笑っていた。そういうところできちんと笑える人なのだ。泣いたのは、父が亡くなったときだけ。あのときにもう一生分泣いたと、自身、あとで言っていた。
母の死後、母が務めていた大学の学食を聖輔が見たときのシーン。
個人的にこの小説の一番泣けるところ。
全てにおいて息子を優先する母親が想像できて泣ける。
なんでこんな人が亡くなっちゃうんだよ…
「こんなことしか言えないけどさ。がんばってよ」
「はい。がんばります」
父の昔の同僚との会話。
このシンプルなやり取りがいい。
「がんばります」が即答できるのが聖輔のいいところだよなぁ。
「電車代、もらっちゃったよ。いいのかな」
「いいでしょ。こっちはカツとコロッケもらってるんだから」
大学時代の友人、清澄の家を訪ねた帰り。清澄の母から聖輔が電車代をもらったことについての会話。
清澄の返答がいい。自分の親が聖輔にお金を渡すのを当然と思ってるのが人間出来てると思う。
自分が清澄の立場やったら、他人にお金あげる前に子供の自分にちょうだいよ、って思ってしまいそう。
俺が意地汚いだけかもな。
しかも、清澄は聖輔がお金もらったことを申し訳なく思わんようにフォローまでしてる。
清澄って出番このシーンぐらいしかないけど、一気に好きになったな。
「おれはたまたまちょっといい大学に行ってるけど、そんなことは何でもないと思ってるよ。だから青葉とも普通に付き合えるし、コロッケなんかも好きだよ」
この作品の悪人第二号、高瀬涼の発言。
第一号はもちろん基志。
高瀬は悪人ってほどではないか。作品内でも言われてるけど、人の気持ちに「鈍感」なだけ。
これすごい解像度高いよね。絶妙にいるいるこういう人!ってなってちょっと鳥肌立った。
こういう人って「何でもないと思ってる」って自分では言うけど、人に同じこと言われたらちょっとムってするよな。
コメント